蓄電池設備とは?使われ方や種類を解説
地震や停電などの緊急時に、私たちの命を守る設備には、見えないところで支えている“縁の下の力持ち”が存在します。その一つが「蓄電池設備」です。
電気が来なくなった時でも一時的に電力を供給するこの設備は、防災・BCP(事業継続計画)において非常に重要な役割を果たします。本記事では、蓄電池の種類や構造、建物における使い方まで、事例を交えてわかりやすく解説します。
1. 蓄電池とは?一次電池と二次電池の違い
蓄電池とは、電気エネルギーを化学的に蓄えておき、必要な時に放出する装置です。電池には大きく2種類があります。
● 一次電池(使い切りタイプ)
一度しか使用できない、使い切り型の電池です。内部の化学反応によって電気を発生させますが、放電が終わると使えなくなります。
代表例と用途:
- アルカリ乾電池:懐中電灯、リモコン
- マンガン乾電池:時計、トランジスタラジオ
事例:
- 家庭の防災バッグに常備されている懐中電灯用の単三乾電池(アルカリ電池)
● 二次電池(充電可能タイプ)
充電によって繰り返し使用できる電池です。家庭用機器から産業用設備まで幅広く使われています。
代表例:
- 鉛蓄電池(非常電源・自動車)
- リチウムイオン電池(スマートフォン・電気自動車)
- ニッケル水素電池(充電式電池)
事例:
- ビルの非常用照明を動かす蓄電池(鉛蓄電池)
- 通信基地局のバックアップ電源(リチウムイオン)
2. 非常電源として使われる鉛蓄電池
建築物やインフラ施設では、停電に備えて非常用の電源が整備されています。その中で最も多く採用されているのが「鉛蓄電池」です。
● 鉛蓄電池の特徴
特徴 | 内容 |
---|---|
長寿命 | 5~10年程度、メンテナンス次第でさらに延長可能 |
安定した出力 | 急な負荷にも耐えられる、瞬時に電力供給が可能 |
コストが安価 | 他の二次電池に比べて初期導入費用が安い |
重量が重い | 小型化には不向き、設置スペースの確保が必要 |
● 使用例
- ビルの非常照明設備
→ 停電と同時に鉛蓄電池が起動し、廊下や階段の照明を30分間点灯 - 病院のナースコールシステム
→ 停電時でもナースコールが使えるよう、バックアップ用の鉛蓄電池を搭載 - 工場の火災報知設備
→ 鉛蓄電池により最低でも10分以上作動を保証
3. 用途と種類が多いアルカリ電池
アルカリ電池と聞くと、家庭用の乾電池を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実は産業用の「アルカリ蓄電池」も存在し、さまざまなシーンで活用されています。
● 産業用アルカリ蓄電池の例
- ニッケル・カドミウム(Ni-Cd)電池
→ 長寿命で高温環境にも強い。鉄道や発電所の制御装置向け。 - ニッケル・水素(Ni-MH)電池
→ 繰り返し充放電性能が良好。ポータブル機器に使用される。
● 用途の幅広さ
用途 | アルカリ電池の役割 |
---|---|
鉄道の信号装置 | 停電時も安全に列車を停止させる |
発電所の制御パネル | 瞬時のバックアップ用 |
携帯医療機器(AEDなど) | 安定した高出力を確保 |
事例:
- JRの信号保安装置では、耐寒性と瞬発力に優れるNi-Cd電池を導入
- 地方の山間部に設置された通信塔で、定期的にNi-MH電池を交換しながら運用
4. 鉛蓄電池の構造をやさしく解説
鉛蓄電池は、最も古くから使われている二次電池の一つですが、その構造は意外とシンプルです。
● 基本構造
- 正極板:二酸化鉛(PbO₂)
- 負極板:鉛(Pb)
- 電解液:希硫酸(H₂SO₄)
- セパレータ:正負極が接触しないようにする絶縁材
● 動作原理(簡略)
放電時:
- 正極:PbO₂ → PbSO₄
- 負極:Pb → PbSO₄
- 電解液:硫酸濃度が下がる
充電時:
- 化学反応が逆転し、もとのPbO₂とPbに戻る
事例:
- 非常用設備向けに設置された24V鉛蓄電池(セル12個を直列接続)
- データセンターでは、安全性の高い密閉型鉛蓄電池をラック内に収納
5. 建物における蓄電池の使い方
ここでは、実際に建物でどう蓄電池が使われているのか、主な用途を事例とともに紹介します。
● 非常用照明
建築基準法で定められている「非常用照明器具」には、蓄電池が内蔵されており、停電と同時に自動で点灯します。
事例:
- 商業施設:通路の天井に埋め込まれた非常灯が、停電から3秒で点灯し30分間持続
- ホテル:客室廊下の天井に非常灯を配置し、宿泊者の避難を補助
● 誘導灯(避難誘導表示)
避難経路を示す緑の誘導灯は、普段は商用電源で点灯していますが、停電時は蓄電池で継続点灯します。
事例:
- 駅構内:プラットフォームから出口まで、蓄電池内蔵の誘導灯が導く
- オフィスビル:非常階段の誘導灯が、鉛蓄電池で最低20分点灯を保証
● 非常用コンセント
消防法により、防災センターや特定施設では「非常用コンセント」が必要です。これも蓄電池や非常用発電機からの電力で機能します。
事例:
- 病院の待合室:停電時でも携帯電話や酸素吸入機器の使用を可能にする
- 学校の体育館:避難所開設時にコンセント経由で電気ポットや照明器具を使用
まとめ:蓄電池設備は見えないところで私たちを守っている
蓄電池設備は、日常ではあまり意識されませんが、災害や事故時には命綱となる重要なインフラです。鉛蓄電池を中心に、建物のさまざまな場所で非常用電源として活躍しています。
また、用途や環境に応じて、アルカリ系やリチウムイオン系など多様な種類が使い分けられています。今後は、再生可能エネルギーやV2H(電気自動車からの給電)などとの連携も進み、蓄電池設備の役割はますます広がっていくでしょう。
災害に強い建物、安全な社会を支えるためにも、蓄電池という静かなるパートナーに注目してみてはいかがでしょうか。